ホームページリニューアルのサイト構成表をつくりましょう
さて、今回はいよいよ、これから作成するリニューアルサイト構成表を作成して、リニューアルの企画をまとめていきましょう。
●リニューアルでは最初にサイト構成のスケッチをつくる
ホームページのリニューアルの進め方を少し細かく整理すると、次のようになります。
1)ターゲットを決める
2)成果の目標を決める
3)ターゲットとの出会い方を決める
4)出会ったターゲットの目標への誘導を決める
5)それをページに落とし込む
6)必要なページ数を数えて概略の予算を立てる
ホームページリニューアルの進め方の本を見ると、真っ先に制作会社2,3社に連絡して見積りを取ります、と書いてあるものもありますが、それでは見積りの依頼のしようがありません。業者Aが100万円で、業者Bが50万円だと言っても、条件が決まっていないのでは、選ぶ基準もないことになります。
成果がないのであれば、単純に安い方が良いに決まっていますから、50万円の方を選ぶ他ありません。しかし、
業者A:予算100万円 月の売上見込み30万円
業者B:予算 50万円 月の売上見込み 3万円
だったらどうでしょう。業者Aの提案は4ヶ月で元が取れるのですが、業者Bの方なら1年かかっても36万円しか上がりません。業者Aで月30万円の見込みがあるなら、元を取ったあとはウェブ担当者の人件費をまかなうこともできるかもしれません。
見積りをとるなら、「月の売上見込み」に当たる部分の考え方がなければ意味がないのです。制作会社だって、何を目指して金額をはじけば良いのか分かりませんから、どうしようもないのです。
さて、この手順について改めて見ていくようにしましょう。
(1)ターゲットを決める
ウェブはマーケティングです。マーケティングとは、顧客との良い関係を築くことです。ということは、ターゲットが決まっていなければホームページをリニューアルしても何もうれしいことがありません。
誰に出会いたいのか、細かく決めていきましょう。エクセルを開いて、
No. テーマ ターゲット 目標
1 新規商品A 新規見込み客 〇〇業界の設計者 問い合わせ
2 新規商品B 新規見込み客 △△業界の決裁者 デモを依頼
3 主力商品C 新規見込み客 □□業界の設計者 資料ダウンロード
4 既存顧客 消耗品の発注
といった形で細かく書いていきます。これは必ず製品ごとに違いがあるはずです。ウェブ担当者は総務系の社員だったりしますから、各製品担当が誰と出会うために努力しているか、あまり伝わっていない場合もあります。これは無理せず、よくヒアリングしながら進めてください。この段階だけで1ヶ月くらいかかると考えて、じっくり進めます。
ターゲットが決まっていないままでは、SEOでキーワードを決めましょう、と言っても決めようがありません。コンテンツマーケティングと言っても、何をつくれば良いのか分かりません。
対象者を決めるのは、採用でも同様です。おおまかに「新卒採用」「既卒採用」と言っても、同地域の〇〇大学の卒業見込みの人と、別地域の異業種からの転職希望者では、伝えなければならないことがまったく異なります。それぞれに適した内容を掲載することで、採用できる可能性も高まるわけです。
(2)成果の目標を決める
上の表ができたら、列を挿入して、「数」を書き入れていきましょう。
No. テーマ ターゲット 月訪問 目標 目標数
1 新規商品A 新規見込み客 〇〇業界の設計者 200 問い合わせ 5
2 新規商品B 新規見込み客 △△業界の決裁者 100 デモを依頼 2
3 主力商品C 新規見込み客 □□業界の設計者 100 資料ダウンロード 30
4 既存顧客 30 消耗品の発注 5
という形です。数字に完全な根拠はなくても、「この業界にこういう会社が何社ある、だから何人くらいいるだろう」「最大の展示会の入場者は〇万人だから」といった形で類推していきます。
目標数は、月訪問数に対して1~3%くらいに置いていけば良いでしょう。この割合を「CVR」(コンバージョンレート Coversion Rate、顧客転換率)と言います。
CVR 1~3% = 目標数 ÷ 月訪問数 ×100
という計算式です。
今のホームページで計測すると、多くのサイトで0.1%程度の値になります。1,000人来て1人だけが目標に到達する割合です。だから「そんな高いCVRがあるわけがない!」と言う人もありますが、現実にはこの値は難しいものではありません。なぜ多くのサイトでCVRが0.1%になってしまうのかと言うと、
・集客が適当になってしまっている
・目標に誘っていない
からです。上の表で決めたようなターゲット訪問者を適切に集客していれば、相手だって良い製品や会社と出会いたいと考えているのですから、率は高まります。B2Bの会社なのに主婦ばっかり訪れているサイト、なんていうのもありますが、それではどれだけ多く訪問があっても成果にはつながりませんね。ターゲットを決めて適切に集客できるようにサイトをつくることが成果の基盤なのです。
目標に誘う、というのも成果を出すのに不可欠です。ホームページではページの右上に「お問い合わせ」という赤いボタンを置くのが決まりごとのようになっていますが、このボタンを置きさえすればお問い合わせが来る、というのは妙な考え方ですね。お問い合わせをすれば、こんなメリットがありますよ、ということを感じさせるべきです。たとえば、「今ならこんな資料がもらえる」といったことを告知することで、「じゃあお問い合わせしようか」という気持ちが強まるでしょう。
こうした措置をしていけば、CVR1%は決して夢物語ではありません。
(3)ターゲットとの出会い方を決める
ではウェブサイトはこのターゲットと出会うために、どんな内容が必要でしょうか。
ターゲットが「〇〇業界の設計者」であれば、「〇〇業界」に向けた内容が必要です。〇〇業界の人は、この会社の製品が自分の仕事に役立つとはまだ知らない可能性があります。御社の名前も知らないかもしれません。そのままでは、どんなに「この製品は良い」と主張しても、そもそもサイトに訪れません。
ちゃんとターゲットに向けて話しかけることが必要です。仮に営業スタッフなら、展示会で顧客と出会った時、何業界の人かを聞いて、その業界の人が魅力を感じるようにトークをするでしょう。そもそも、その業界の人が来ていそうな展示会を選んで出展しているはずです。
ターゲットに向けて話しかける、というのは難しいことのように聞こえますが、例えば、「納入事例」を用意して、その業界の成功事例を出してみてはどうでしょうか。それならその業界の人が自分ごととして読んでくれるかもしれません。
当然納入事例を出すには、相手の了解が必要で、B2Bの会社ではなかなか出せないのですが、ここをがんばって1社でも了解をもらって掲載することがホームページを成果に近づけるのだと考えてください。
製品の詳しい説明でも、各業界に適した内容の説明ページをつくることができます。技術情報の中でも同様です。どんな内容によって出会うかを決めるにも、各製品担当へのヒアリングが重要です。営業時に何を言えば相手の反応が良いかをつかむことで、ホームページの内容を決めるのに欠かせません。
(4)出会ったターゲットの目標への誘導を決める
仮に納入事例のページにターゲット「〇〇業界の設計者」が訪れたとすると、その人はトップページではなく、その納入事例の1つの事例ページを見ているわけです。
このページはそのまま成果を出せるページではありません。「お問い合わせフォーム」や「資料ダウンロード」に移動させなければなりません。その人は、何が魅力に感じてお問い合わせしようと思ったのでしょうか。この「魅力」と「目標へのリンクボタン」が不可欠です。
魅力にはいろいろあります。「お問い合わせすると資料がもらえる」「ホームページからのお問い合わせをすれば割引」といったものもあるでしょう。
また、「この会社は優れた会社だ」と感じさせることも、「問い合わせしておこう」と感じさせる動機になります。100年の老舗、先端的な技術、こんな有名な会社に採用されているなどの内容です。
サイトのどこかに書いてあっても伝わりません。この人は今、「納入事例」のうちの1つの事例のページに立っています。他のページはまったく見えていません。その状態で、「優れた会社だ」と伝えるためには、この納入事例のページにそのエビデンスを掲載しておくことが重要です。一般に、事例ページの一番下には「事例の目次へ」といった道案内があるだけですが、それでは魅力にはなりません。
●ターゲット誘導をスケッチしていきましょう
大きな紙を開いて、いくつかの円を描いて矢印でつないでみましょう。1つの円には「〇〇業界設計者」と書きます。そこから矢印でつないだ円には「××社の納入事例」と書きます。これが集客を示しています。
もし集客を別のコンテンツで行うなら、
〇〇業界設計者 → 〇〇コンテンツ → ××社の納入事例
という別のルートも考えられます。これらからお問い合わせに向かわせたいとすると、
〇〇業界設計者 → ××社の納入事例 → お問い合わせ
〇〇業界設計者 → 〇〇コンテンツ → ××社の納入事例 → お問い合わせ
〇〇業界設計者 → 〇〇コンテンツ → お問い合わせ
という絵を描くことができます。これを順不同で良いですからスケッチしていきます。書いては消して、で構いません。
もちろん、紙ではなくパワーポイントを開いて、図形ツールを使えば楽です。私はいつもこの方法でスケッチしています。ただパワーポイントでは画面の広さに制限されて自由に描けない場合が出てきますから注意してください。紙の方が、何枚も使って、自由にイメージを広げることができますね。パワーポイントでも、ターゲットごとにページを増やしていけば大丈夫でしょう。試行錯誤して慣れていただければ良いかと思います。
(5)それをページに落とし込む
円と矢印の図ができてくると、矢印が出ているだけの円がターゲットで、矢印が入っている円が「ウェブページ」を意味するものとなります。1つの円が1つのページとは限らず、何ページかセットになったコンテンツである場合もあります。
この図を整理することでサイト構成に迫っていきましょう。
〇〇業界の人に見せたい「××社の納入事例」「〇〇コンテンツ」
□□業界の人に見せたい「△△社の納入事例」「□□コンテンツ」
があるとすれば、これをホームページとしてまとめるなら、納入事例の目次があって、そこからいくつかの事例ページにリンクがあることになります。また、コンテンツにもどこかの目次ページからのリンクがあるでしょう。
納入事例トップ
××社の納入事例
△△社の納入事例
その他の納入事例
商品A
〇〇コンテンツ
〇〇コンテンツの2ページ目
技術情報
□□コンテンツ
のように、まとめることができます。
ホームページは、必ず情報の階層構造で成り立っています。トップページを元締めにして、そこから下層に行くほど広がっていく枝分かれ構造です。
トップページ
製品情報
商品A
商品A特長
商品A仕様
〇〇コンテンツ
〇〇コンテンツ2ページ目
商品B
…
技術情報
□□コンテンツ
…
納入事例
××社の納入事例
△△社の納入事例
…社の納入事例
企業情報
会社の特長
会社概要
…
お問い合わせ
といった形で、目次をたどっていけば必ず全ページにたどり着けるようにします。2段目にある「製品情報」「技術情報」「納入事例」「企業情報」「お問い合わせ」という項目が、グローバルナビゲーションのリンク先ということになります。
目次は実は無理やり作る必要はなく、「うちは製品AとBだけだ」という場合には、
トップページ
商品A
商品A特長
商品A仕様
〇〇コンテンツ
〇〇コンテンツ2ページ目
商品B
…
技術情報
□□コンテンツ
…
納入事例
××社の納入事例
△△社の納入事例
…社の納入事例
企業情報
会社の特長
会社概要
…
お問い合わせ
と、「製品情報のトップ」を省くことも不可能ではありません。
自社の特性に応じて省ける目次を省いた方が各情報に到達する確率は高まりますから、よく考えながら整理しましょう。
到達する確率、については「訪問あたりのページ数」を考える必要があります。
訪問者Aが2ページ見た
訪問者Bが6ページ見た
訪問者Aが1ページ見た
訪問者Cが3ページ見た
ということがあれば、Aさんが2回来てくれましたから、
3ユーザー、4訪問、12ページビューです。
平均ページ数は訪問とページビュー数で決まるので、この場合は
12ページビュー ÷ 4訪問 = 3ページ(平均ページ数)
となります。基本的には訪問者は1回のアクセスで3ページしか見ないのです。この例ではBさんが6ページも見てくれているので平均が引き上げられていますが、普通は3ページ以下だと考えても良いかもしれません。
トップページ → 製品情報 → 製品A
と3ページ見たのでは、「製品A特長」のページまでたどり着かないではありませんか。クリックしてもクリックしても目次ばかりで、なかなか読みたい情報にたどり着きません。ホームページでは目次というのは「ないと不都合だが、多すぎると肝心の情報が読まれない」という悩ましい存在です。あまり階層を深くして、情報を見つけにくいホームページにしないようにしましょう、ということを念頭に置いて整理をしていきましょう。
(6)必要なページ数を数えて概略の予算を立てる
さて、この整理をすれば、論理的で適切に目次が置かれ、その中にターゲットに見せたいページが点在しているようなサイト構成ができあがります。
これをエクセルに書きならべて、通し番号をつけ、各ページのURLを決めたものが、リニューアルサイト構成表となります。
サイト構成表は必ずトップページを先頭にして、階層構造を分かりやすく表記するものとなりますが、この裏には先ほど図示したように、
〇〇業界設計者 → ××社の納入事例 → お問い合わせ
〇〇業界設計者 → 〇〇コンテンツ → ××社の納入事例 → お問い合わせ
〇〇業界設計者 → 〇〇コンテンツ → お問い合わせ
という集客と目標誘導の道筋があることを忘れてはいけません。
サイト構成表を何枚かプリントアウトして、ターゲットごとに、「こことここがターゲットAの集客ページ」「そこからこのページを見せて説得する」「最後はそこからお問い合わせに移動させる」という道筋を上から見やすく描いておくと良いでしょう。
さて、必要なページに通し番号をつければ、全体で必要な(リニューアル時点の)ページ数が割り出せます。
●コストの見積りと売上の考え方
この数が、リニューアルの作業量の元になります。ページあたり2万円かかるなら、50ページだから100万円かかるな、ということになるわけです。
一方、売上も概算しておきましょう。
「このプランでは月にお問い合わせが10件になる」
「10件のお問い合わせで契約にいたるのは0.3件だろう(3ヶ月に1件契約)」
「1件あたりの新規契約単価はうちの会社では100万円だ」
「だから、このリニューアルサイトの売上は月に30万円と見込める」
こうすれば、4ヶ月で100万円のリニューアル費用の元をとって、そのあと黒字化するような概念がまとまるのです。
制作会社にもこの目標を共有して、それが可能となる提案と見積りを依頼しましょう。
●既存サイトから移設するページに注意
ただ、今作成したサイト構成表は「必要なページ + 目次ページ」のリストです。そのため、
既存サイトのページでリニューアル後も載せておくページ
というのが見落とされています。これは見落とすとリニューアルの見積りに大きなずれができてしまうので注意してください。
ずれの原因の多くがニュースのバックナンバーです。企業サイトで一番更新され、新規情報が追加されているコーナーがニュースです。気が付いたら全部で100ページありました、ということはよくあります。100ページのニュースを、内容はそのままでも、リニューアルする新しいデザインに乗せ換えるというのはなかなか大変な作業です。
ページ乗せ換え作業単価 10,000円 × 100ページ = 乗せ換えだけで100万円!
これだけで100万円かかってしまいます。事前にこのことが分かっていないと、制作会社の見積が大きく狂ってしまいます。
じゃあ、古いニュースなんて捨ててしまえば良いじゃないか、という意見もあるでしょう。ニュースはリニューアルしたサイトでまた蓄積していくさ。そう割り切れれば楽なのですが、実はニュースのバックナンバーというのは検索エンジンに好かれるページで、自然検索から多くの訪問者を集め続けているページがあります。
それを知らずに、ニュースのバックナンバーを全部捨ててしまうと、多くの訪問者を取りこぼしてしまうことになります。
できれば事前にアクセス解析を行って、
・どのニュースが集客に役立っているかということを割り出す
・そのページはリニューアル後も同じURLで掲載する(デザインのみ変更)
・そのページに来た人を見せたいページに誘導するリンクを加え、集客力を生かす
ということを考え、
・過去3ヶ月のニュースと、特に集客力の高いこのページとこのページだけ生かす
という風に決めれば、「では、ニュースの乗せ換えはこの15ページだけですね」となって、
ページ乗せ換え作業単価 10,000円 × 15ページ = 乗せ換え費用15万円!
と、より精度の高い見積りができ、効果的なリニューアルが行えるでしょう。
4回続けてサイト構成表について考えてきました。とても大切なツールですから、今すぐ作成して、サイト構成表に基づいて考えるくせをつけてください。
次回からは、ホームページのリニューアルについて、その進め方をさらに考えていくことにしましょう。